明け方のファド
- 2013.06.09
前回の続きです。一流店「Sr.Vinho」のあとはそのまま、夜中の2時からオープンする「Nelo」(ネロ)というお店で濃いファドの夜を体験いたしました。
お店の壁にはファド歌手や常連の方が歌う写真がたくさん、このとき本当に夜中の2時過ぎです。
そして、今回お会いしたかった方にも会うことができました。
ファドギターのヴィタル・ダスンサォンさん。ギタリストでありファデイスタで、ファドの事を何でも知っていらっしゃいます。
日本人ファディスタ高柳卓也さんと日本公演もされています。
『ファディスタ』という言葉にはファドの歌手を指すだけでなく、「ファドと共に生きる人」という意味がありますが、彼はファディスタと呼ぶにふさわしい方。
今のファドへの想い、これからへの想い、たくさんお話しして下さって、熱い気持ちになりました。
現地の皆さんと、この時午前3時半を過ぎておりました。
地元のおじさまたちがたくさん来られて、ファドについて語り、歌の間に「OO歌ってよー」と声が飛び、ヤジまで飛んだりして、さきほどいた「Sr. Vinho」と真逆の世界。
アドリブでの展開があったり、ファドへの想いがこみあげてヴィタルさんの話が延々続いて、切り盛りしているお店の奥さんが「早くうたいなさいよー」と耳元でささやいていたり、もうしっちゃかめっちゃかなんですが、演奏が始まると静まり真剣に聴きあうという最高な夜なのです。
ヴィタルさんが「こういったこともすべてファド、ここは全てがある」と言ってくれたのがとても印象的でした。
この夜は人が集まるのが遅かったのでファドが始まるまでファドについて話したり、ギタラーダ(インストルメンタル)や古典をいろいろ弾いたりしながら始まるまで待っていました。
このウォームアップも「ファドが始まった」と言えます。こういう時間が宝物なのです。
外国人の我々がファドについて知ろうとし、歌い、弾こうとしていることをヴィタルさんたちも喜んで受け止めてくれて、「昨今、ギタリストのことを知らない歌手もいる、ちゃんとしたものを弾けない、知らないのは問題だ。」というような事を言っていたのも忘れられませんでした。
今はCDやインターネットで簡単に聴くことができますが、マイナス面もあります。
例えばですが、若い女の子たちの歌を聴くと「マリーザ」だなとわかることも多く、現場やカーザ・デ・ファドで培われていくものが失われている部分も少なからずあります。もちろん参考にすることは悪くありませんが、すべてがコピーされた表現ではがっかりしていまうのです。これは師匠アントニオ・パレイラも言っていました。
そのためにも古典から基礎を学び、新しい曲にも生かす必要があります。そういうことを教えてくれる師匠やヴィタルさん、いろんなお店で出会うギタリストたちに感謝が尽きません。
私はギタリストではありませんが、一緒に弾いて聴いて糧にして、歌に生かして行きたい思いです。
そんなこんなでお店を出たら朝の6時頃、空がしらみ始めたリスボアの朝でした。
Obrigada, até logo!