舞台終幕、私たちは押し出した、光の方へ…
- 2025.08.15
ファド指導として参加したリーディング公演「不可能の限りにおいて」が
この11日に無事終幕しました。(企画制作:世田谷パブリックシアター)
ご来場くださった皆様、関わってくださった皆様、
本当にありがとうございました。
たくさんの皆さまとこの題材を共有することが出来たこと、
ポルトガルを代表する演劇人ティアゴ・ロドリゲスの画期的な作品を
全編日本語で初上演することに関われたこと、
かつて志した演劇にファドでつながれたことに心から感謝しています。

(演劇時代にあこがれた世田谷パブリックシアターのシアタートラムが会場)
ポルトガル語で出産することを「Dar à luz 光の方へ押し出す」と言います。
折に触れて何度もご紹介している大好きな言葉、
舞台初日があけた時、幕を下ろした時にこの上演に対し心からそう思いました。
これを上演することで突如世界が平和になるわけではない、
世界を変えるには微々たるものかもしれない、
しかし、この言葉たちを全編日本語で伝えることは大きな意味があったはずだと。
今回の作品はこの世界で起きている紛争地や災害の現場での厳しい現実を、
人道支援者の皆さんのインタビューをもとにドキュメンタリータッチで語った作品です。
私はこの戯曲にファドが出てくる意味を明確にすることが使命だと考えて
担当の戯曲終盤のシーンを作っていきました。
大事だと考えたのは「必然」でした。
ポルトガルの人たちにはファドが入る意味は説明不要です。
しかしながら日本ではその壁を突破する必要がありました。
作品の中にある人道支援者や紛争地・災害地で助けを求める人たちの恐れ、
祈りや許し、葛藤、虚無感、これらの想いが繋がってファドとなる「必然」。
歌うことで己を受け入れ癒すファドの必要性をどれだけ出せるかが私の仕事でした。
だからファドを単に音楽的に華美に作り上げる必要はないとも思っていました。
逆にどれだけそぎ落とすことが出来るかが稽古終盤の作業でした。
台本を書いたティアゴ・ロドリゲスさんの組み立てに従って作品全体がつながっていくと、
積み重なっていく気持ちが自然と終盤シーンのファドに乗っていきました。
出演者皆さんのハミングにはすべての感情が生まれていました。
劇中で歌われた「Medo恐れ」のオリジナル歌手アマリア・ロドリゲスはこう言います。
「ファドは起ること」と。
まさにその通りでした、結果音楽的にも演劇的にもよいファドになったと確信しています。
ソロを歌った万里紗さん、岡本圭人さんの歌声がたまらなかった。
台詞のように寄り添うギターの呼吸も素晴らしく、
あれこそまさしくファドでした。Parabéns!!

(ファドを歌われた万里紗さんと)
前述通り、厳しい現実を伝えるこの作品は取り組み方も難しいものでした。
終演後に「よかったねー、お疲れ様!」と清々しい気持ちというより
「この現実が、伝えられただろうか?」
「分かった気になっていないか?おこがましくなかったか?」
「世界を大きく変えることは出来なくても少しでも力に、少しでも…」
と葛藤しながら演出の生田みゆきさんと出演者の皆さん、
スタッフの皆さんが演劇の力を信じて創り上げてきました。
終わってからの乾杯の席でもその話はまだまだ続きました。
上演にご尽力された翻訳の藤井慎太郎さんと、
パブリックシアター芸術監督の白井晃さんの想いも同じでした。
微力かもしれない、世界は変えられないかもしれない。
でも、間違いなく光の方へ押し出した。
ここから誰か一人でも多くニュースの向こう側を想像し、
それが言葉になり、伝わっていくことを信じて。
光である世界を変えていけるように。

最後に、この座組へ私をお呼び下さった演出の生田さん(写真左)、
ありがとうございました。
その信念、私のこれからの糧となります。
Até logo!